あだち充の作品はみんな同じ顔?そんなわけない!
と言いたいところだが、あだち充作品好きの僕でも、なんなら作者でさえ顔の違いがわからないらしい。
それがあだち充。
あだち充の野球漫画といえば、タッチとH2が挙げられるだろう。
どっちがよりおもしろいか、度々ネット上でも論争が起こっている。
世間一般的にはアニメや主題歌の影響もありタッチの方が知名度は高いが、あだち充ファンや野球好きからはH2の方が人気があるといったところか。
もちろんどちらも名作で、僕はどちらが上だとかは決められない。
今回はそのどちらでもなく、「クロスゲーム」という作品について語りたい。
クロスゲームはタッチ・H2に続き青春野球漫画なのだけれど、どうもこの2作品に比べて知名度が低い。
アニメ化もされているし、漫画が好きな人は当然知ってはいると思うけど、いかんせんタッチとH2の影に隠れてしまっている。
でもこの2作品に負けず劣らず本当に素晴らしいい作品だから、クロスゲームを知らない人になんとしてでもその魅力をできるだけネタバレせずに伝えたい。
〈魅力その①〉ヒロインがツンデレ
創作物全般においてはツンデレヒロインって別に珍しくはないんだけど、あだち充作品においてはかなり珍しい。
初めてなんじゃないかな?
例によって幼馴染のヒロインなんだけど、タッチの南ちゃんのようにおおらかな性格じゃなくて常にツンツンしている。(それには理由があるんだけど)
あだち充作品って「お互い好きオーラは出してるんだけどきっかけが無い」パターンが多いんだけど、クロスゲームではヒロインが主人公のことを「嫌い」と明言しているんだよね。
あだち充作品の中では革新的なキャラであり、ファンの間では「これが正解だったのか」とも言われるツンデレヒロイン。
というかデレ要素はほとんどなく基本ツンツンしてるんだけど。
南ちゃんのような王道ヒロイン信者からすれば”邪道”なのかもしれないけど、時代の波に逆らわず流行を敏感にキャッチしてマイナーチェンジを続けられるからこそ、あだち充作品はいつの時代でもヒットを生み出し続けているのかもしれない。
〈魅力その②〉ヒロインも野球をやる
青春野球漫画といえばだいたい主人公がピッチャーでヒロインはマネージャーだったり、南ちゃんのように新体操をやったりしているのが定番だけど、クロスゲームでは主人公のみならずヒロインも野球をやっている!
なんなら主人公はヒロインの投球フォームに憧れて真剣に野球に取り組むようになる。
男子に交じって試合をしても十分戦力になるんだけど、女子という理由だけで公式試合に出られない。
それでも誰よりも一生懸命練習をするんだよ。
高野連の偉い人たちにこの漫画を見せたらルールが変わって女子も公式試合に出られるんじゃないかな?
それくらいヒロインのひた向きさとか野球が好きという熱意が伝わってくる。
〈魅力その③〉タッチドリームチーム結成
これはタッチを読んだことある人しかわからないんだけど、タッチの主要キャラといえば女房役の孝太郎・他校のライバル新田・親友(?)でボクシング部の原田。
クロスゲームではなんとこのメンバーが全員味方でチームメイトになる。
もちろんストーリー上その役割に当たる人物がという意味で。
もしも須見工の新田が同じチームだったら?
もしも原田がボクシングではなく野球をやっていたら?
そんなifストーリーを作者が我々読者に見せてくれているような気がする。
まだまだ伝えきれてない部分はたくさんあるけどだいたいこんなところだろうか。
良いところだけを伝えるのは簡単だけれど、ここからはあえてクロスゲームの残念なところを紹介する。
メリットとデメリット両方を提示するのはブロガーの使命だからね。
〈残念なところその①〉かませ犬キャラの扱いがひどい
漫画には主人公とヒロインの関係を発展させるためや物語にスパイスを加えるために、かませ犬キャラというものが存在する。
かませキャラはヒロインに積極的にアピールすることで主人公にヤキモチを焼かせるという重大な任務を与えられている。
クロスゲームにもこのかませキャラが登場するのだが、どうもあだち充の他作品に比べて扱いがショボいのである。
例えば「千田」というお調子者ナルシストキャラが登場するのだが、野球においても恋愛においてもこれといった見せ場はない。
チームの中で浮いているような描写すらある。
H2で同じようなキャラだった「木根」と比べてもその扱いの差は歴然である。
実は練習熱心で陰で人知れず努力していた木根が、甲子園で完投勝利を納めるシーンはH2史上、いや、あだち充作品史上1番の名シーンとも言われている。
さらに物語中盤でイケメンでヒロインに思いを寄せているキャラが登場するのだが、特筆する出番もなく退場してしまった。
〈残念なところその②〉やっぱり誰かが死ぬ
これはあだち充作品の宿命とも言えるのだが、やっぱり誰かが死んでしまう。
いや、タッチにしろクロスゲームにしろ、その死とどう向き合うかが一つのメインテーマだからそれ自体が残念というのは少し語弊があるかもしれない。
ただやはり愛着のあるキャラクターが亡くなってしまうのはとても寂しい。
そんな読者の意思を汲み取ってくれたのか、クロスゲームでは1巻というとても早い段階で登場人物が亡くなる。
「いや、早けりゃいいってもんじゃないんだよ…」
とツッコミたくなるが、物語中盤でそれをされるよりは読者の気持ちは穏やかだ。
個人的な印象としては、タッチ以降のあだち充作品はできるだけ登場人物の死を悲しい出来事として捉えないような工夫がされているように思う。
あくまで作品全体の雰囲気という意味でだけど、登場人物を明るくしたり、死を振り返るのではなく前向きに捉えている気がする。
〈まとめ〉
今回はあくまでもタッチやH2と比較した上で「クロスゲーム」という作品の魅力を書いたけど、正直これだけじゃ全然伝わらないよね。
と言うのも、タッチやH2などのあだち充作品に共通する空気感とか雰囲気がやっぱり最大の魅力だと思う。
独特の言い回しとか、コマの余白の使い方とか、登場人物の心理表現とか。
あとあんまり語られないけどあだち充作品ってジョークがすごくおもしろい。
話の冒頭で出て来た何でもないセリフを、その話の一番最後にオチで使ったりするんだよ。
そうすると冒頭とオチとで同じセリフでも全然違う意味だったりする。
そういうウィットな感じの笑いがいっぱいあるのは作者が落語が好きなことと大いに関係していると思う。
「こいつら本当に高校生か??」
ってくらいほぼ全員がてんどんとか皮肉とか比喩とかをアドリブでぶっかましてくるからね。
芸人顔負けだよあれは。
あとあだち充は同じジャンルの漫画で何発もヒットを生み出してるのがすごい。
「青春野球マンガ」なんていう絞ったジャンルで3発以上も当てるなんてすごすぎない??
例えば「ワンピース」の作者が次回作で海賊モノを描いてもたぶんあんまりおもしろくないでしょ。
どうしてもワンピースと比べてしまうから。
そう考えると前作と比較されながらも、過去作とは違う面白さを常に開拓し続けてきたあだち充は本当にすごい。
同じようなジャンル、同じような容姿のキャラクターを描いていても、その作品ごとの”顔”がある。
その”顔”は悲しい顔や笑った顔、様々な表情で作品ごとに読者にいろんな感情を与えてくれる。
これからもあだち充には、僕たち読者に様々な顔を見せ続けていってほしいと切に願う。
さて最後にあだち充よろしく、前述の「冒頭とオチで同じセリフでも全然違う意味」というのを僭越ながらやってみたい。
あだち充の作品はみんな同じ顔?そんなわけない!