子供の頃、通学路は田んぼだらけだった。
田んぼ沿いをひたすら歩いていた記憶しかない。
帰り道にはよく田んぼの中の生き物を観察していた。
カエルとかアメンボみたいなのもいたんだけど、一番遭遇率が高かったのがカブトエビだ。
とりあえずカブトエビを見つけては素手でそのまま捕獲して家に持ち帰ったりしてたけど、母親は拒絶反応を示していた。
そりゃそうだよな、と今では思う。我ながらよくあんな気持ち悪い生き物を素手でさわれたよな、と思う。カブトエビに限らず子供の頃はもっと勇気があった気がする。
カマキリとかコオロギとかも素手で捕まえてたよなぁ。今はもう怖くてそんなことできない。だらしない大人になっちまった。
そんな風に僕ら子供たちに乱獲されていたカブトエビだけど、最近はすっかり姿を見なくなってしまった。
田んぼ自体が激減してしまったのが1番の要因だろうか。
昔登下校で歩いた田んぼは、ほとんど新築のマンションや一軒家に様変わりしてしまった。田んぼを維持するよりその方が儲かるんだから仕方ない。
最近調べたんだけど、カブトエビは田んぼの中の雑草を食べたり、泥をかき回すことで稲の根腐れを防いでくれるのだそうな。だからわざと田んぼに放流している農家さんもいるのだとか。
カブトエビ…!お前……!
そんなに立派な仕事を担ってたのか……!!
何も知らないで乱獲してごめんよ。
でも、あの後お母さんに怒られてちゃんと田んぼに返したから許してくれよ。
え?許さないって?
じゃあさ、ちゃんと謝るからさ、もう1回田んぼに現れてくれよ。
お前がいない田んぼは寂しいよ。
もうあの頃の田んぼはなくなっちゃったけどさ、少し離れたところに田んぼがいっぱいあるんだ。
そこでまた会おうぜ。