ぽぷら日和

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締め切りは破るためにこそある(3000文字チャレンジ)

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締め切りってのは漫画家とか小説家につきまとってるものだ。

 

「締め切りを過ぎているのに原稿が上がってこない」

とか

「今週締め切りの連載を3つも抱えてる」

とか。

 

作家の自伝やエピソードでよくある話だ。

 

漫画家でも小説家でもない僕には、”締め切り”という言葉はあまり縁がない言葉に思える。

 

でもよくよく考えてみると、僕は子どもの頃から常に締め切りとともに生きてきた。

 

 

 

例えば学生の頃の”宿題”。

 

1日単位や1週間単位で毎回決められた期限までに課題を提出しなければならない。

 

小学生の頃は”締め切り”という概念を意識していなかったけど、宿題こそがほぼ全ての人間が人生において、一番最初に体験する締め切りなんじゃないだろうか。

 

小学校低学年の法令遵守意識はめちゃめちゃ高い。

 

みんなきちんと宿題の締め切りを守って課題を提出する。

 

誰もが

「我こそは法の番人である」

とでも思っているかのような毅然とした態度で、社会のルールや校内のルールを守っている。

 

中でも女子のコンプライアンス意識は極めて高い。

 

「ちょっと男子!ちゃんと掃除してよ!!」

 

というテンプレフレーズに代表されるように、法の番人であるはずの低学年男子さえもたしなめるその小さな体には、間違いなく法の精神が宿っている。

 

彼女たちはきっともれなくモンテスキューの生まれ変わりに違いない。

 

 

 

しかしそんなコンプライアンスゴリ守り小学生も、成長するにつれて少しずつ変化が訪れる。

 

「先生ー!宿題忘れましたー!」

なんてことを反省の色なしに堂々と自白するヤツが現れる。

 

(ちょ、おま……!宿題忘れるって、そんなことしたらおま…!!)

 

と僕が焦っていると先生は

 

「そうかーじゃあ明日までに持って来いよー」

 

………

 

………

 

(……え⁉それだけ⁉宿題忘れてもペナルティないの⁉)

 

そう、僕があれだけ懸命に遵守し続けた「宿題の締め切り」は、破ったところで何のペナルティもなかったのである。

 

こちとら締め切りを破ってしまった日にゃ、アイアンメイデンで処刑されても何の文句も言えないと腹をくくって毎日毎日締め切りを守ってきたってのに…!

 

「自分が今まで必死に守ってきたものが、こんなに醜い生き物だったなんて…。」

 

と闇落ちしてしまうキャラクターのごとく、僕のコンプライアンス意識はボロボロに崩れ去った。

 

……

 

 

僕はあの日、この世の真実を知った。

 

子どもながらに、締め切りという言葉の本当の意味がわかってしまった。

 

締め切りというのは破られることを前提に作られている。

 

締め切りを設けてもどうせ守らないやつがいるから、本当のデッドラインより少し早めに偽の締め切りが作られている。

 

てことは何か?

締め切りを守るやつはバカか?

真面目に生きている人間がバカを見る世の中なのか??

 

それならいっそ締め切りを破る側にまわってやろうじゃないか。

 

ダース・ベイダーになった時もこんな気持ちだったんだろうかとアナキンに思いを馳せながら、僕は法の番人を卒業した。

 

 

それからというもの僕はありとあらゆる締め切りを破った。

 

夜の校舎で締め切りを破った。

 

放課後街をふらつき締め切りを破った。

 

盗んだバイクで締め切りを破った。

 

行儀よくマジメなんてできやしなかった。

 

(※一部事実と違う表現があります)

 

 

だがそんな僕に、またも転機が訪れる。

 

大学生の頃の卒業論文だ。

 

「〇月✖日の14時までに論文を提出してください。一秒でも遅れたら受け付けません。」

 

なんてことが公示されていた。

 

「そうは言いつつも、多少遅れても受け付けてくれるんでしょ?」

 

と思いつつも、早めに論文が出来上がっていた僕はきっちりと時間内に論文を提出した。

 

その翌日、とんでもない事実が判明した。

 

友人の一人が論文の内容にこだわってギリギリまで修正を加えた結果、提出するのが1分遅れたため論文を受け付けてもらえず、留年が決定したのだ。

 

 

おい。

 

おいおい。

 

ちょっと待て。

 

締め切りってのは破られることを前提に設けられてるんじゃなかったのか?

 

他人事だからと笑ってられない。

 

一歩間違えれば、僕が留年していたかもしれない。

 

締め切りを破ったってどうってことないと思っていたからだ。

 

これは由々しき問題だ。

 

 

おいモンテスキュー。

 

ちょっとそこに座れ。

いいから座れ。

 

お前な、何が「法の精神」だよ。

 

締め切りってのは守らなきゃいけないものだと思ってたよ。子供の頃は。

 

でも大人たちは平気で締め切りを破るじゃないか。

 

締め切りを守れと教えるくせに自分たちは締め切りを破る。

 

締め切りは破るためにあるってことを教えてくれたのはあんたたちじゃないか。

 

それなのに今、締め切りを1分過ぎた僕の友人を見放すってのか?

 

あんたは今再びオレの心を『裏切った』ッ!

 

 

だいたいなんだよその名前は。

 

モンテスキュー?

 

むしまるQみたいな名前しやがって。

 

え?

本名じゃないの??

 

本名は

「シャルル=ルイ・ド・スゴンダ」?

 

おいおい。

じゃあますますなんなんだよモンテスキューって。

 

完全に狙ってんじゃん。

ウケ狙いじゃん。

 

だいたい何で本名隠してんだよ。

Dの意思かよ。

 

本当は「シャルル=ルイ・D・オスゴンダ」なのか?

そうなのか??

 

まぁいいや、もう。

今日はこの辺で。

 

よく考えたらあんたが悪いわけじゃないもんな。

 

申し訳ない。ちょっと頭に血がのぼっちゃってさ、それで…。

 

本当に悪かった。

ロックとルソーにもよろしく言っといてくれよな。

うん、それじゃ。

 

 

 

こうして僕はまた一つ大人になった。

 

「締め切りには破っても大丈夫なものと、絶対守らなければいけないものがある」

ということを学んだ。

 

ありがとう、モンテスキュー。

 

 

……

 

思うんだけどさ、締め切りって基本的には明確に期限が決まってるじゃん?

宿題とか卒業論文みたいに。

 

そういう期限が決まってる締め切りってのはまだマシなんだよ。

 

本当に怖いのは、期限が決まってない締め切り。

 

例えば

「〇歳までに自転車に乗れるようになってなきゃいけない」

「〇歳にもなって一人で電車に乗れないなんて恥ずかしい」

 

とかさ。

 

誰が決めたわけでもないけどなんとなーく社会全体にそういう空気が溢れてる。

 

この暗黙の締め切りを守れていないと、学校や社会でバカにされたり仲間外れにされたりする。

 

実際僕も小学校1年生の時自転車に乗れなくてバカにされた。(そのおかげで猛練習して乗れるようになったのだが。)

 

そういう暗黙の締め切りこそさ、破ってもいいんじゃない?

 

なんか息苦しいよ、そういうの。

 

自転車に乗る必要がなければ別に乗らなくてもいいし。

 

逆に何歳になっても新しいことに挑戦してもいいわけだし。

 

そんな堅苦しい締め切りを守るくらいならもっと他のものを守りたい。

 

オゾン層とか、アマゾンのジャングルとか、あの娘の笑顔とか…。

 

 

決めた!

僕はこれからはいかなる締め切りにも縛られず自由にいきることにした!!

 

課題?

応募締め切り?

 

そんなもんはクソ喰らえだ!

 

「締め切りは破るためにこそある」

 

これがこれからの僕のモットーだ!

 

あー、そう考えるとなんだか頭がすごくスッキリする。

頭の中に爽やかな風が吹いている気がする。

 

気分も良いし、久しぶりに部屋の掃除でもするかな。

 

しばらく掃除してなかったから物が散乱しちゃってるなー。

 

ん?なんだこの封筒は??

こんな封筒いつからあったんだ?

 

どれどれ…

「自動車税納税通知書」?

 

あー自動車税かぁ。めんどくさいなぁ。

 

えっと、期限はいつま……

 

 

納期限「令和2年6月1日」

 

 

 

………ヤバいっ!!

 

締め切り明日だっ!!!

 

急いで払いに行かなきゃっ!!!

 

 

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