皆さんは「ピューと吹く!ジャガー」という漫画をご存じだろうか?
2001年から2010年まで週刊少年ジャンプにて連載されていた大人気ギャグ漫画だ。
ジャンプでは同時期に「世紀末リーダー伝たけし!」や「ボボボーボ・ボーボボ」といった爆笑ギャグ漫画が連載されており、どれもとてもおもしろいのだが僕が一番好きな(というより一番影響を受けた)ギャグ漫画はこの「ピューと吹く!ジャガー」だ。
ジャガーさんの魅力は何かな?と考えた時に、
・シュールな表現
・独特な擬音語・擬態語
・魅力的なキャラ
など、様々な要素があるんだけど、それは他のギャグ漫画でもいえることだと思う。
ジャガーさんにしか無い魅力を考えた時に、ポエムという一つの答えが見つかった。
そう、この漫画では作中に各キャラのポエムが突然登場するのだ!
そのポエムの破壊力といったら、BLEACHの巻頭ポエムに匹敵するほどだ!
(あんなにオサレではない)
今回はその中でもジャガーさんが詠んだポエムに絞って紹介していきたい。
ポエムを詠んだ時の背景と僕の個人的な感想を交えて紹介していくのでどうか最後まで読んでみてくれ!読んでください!!
あらすじ
「ピヨ彦」こと酒留清彦は、就職も大学も蹴りギタリストを志望して、さまざまな芸能養成学校やプロダクションのオーディションを受けるものの、ひょんな事から謎の笛吹き男・ジャガージュン市に出会ってしまい、その先々でことごとく無理やりなシチュエーションで笛を吹かせようとするジャガーに妨害され、オーディションに落ちる日々が続いた。
最終的にピヨ彦はスター養成校・ガリクソンプロダクション(通称ガリプロ)に半ば無理やり入校することになったが、それとまったく同時にジャガーもガリプロに入り、ジャガーとピヨ彦は寮の同部屋に住むこととなった。さらにジャガーはガリプロにふえ科を創り講師に就任、ギターによる音楽活動を夢見ていたピヨ彦であったが、なぜかふえ科に入ることになってしまった。
ピューと吹く!ジャガー Wikipedia あらすじより引用
1 オレのホクロから今朝なんか白いのが出た
第一話でピヨ彦とジャガーさんが初めて出会った時にジャガーさんが演奏した曲。
ポエムを紹介すると言っておきながら申し訳ないのだが、この曲には詩が登場しない。笑
本来は詩があるはずだが、笛を演奏しながらだったのでフガフガ言ってて全然歌えていなかった。
しかしその時のジャガーさんのたて笛の演奏はピヨ彦の体を熱くし、魂を震えさせる程のすげえビート感で、ピヨ彦にとって衝撃の出会いだったことは言うまでもない。
演奏終了後ジャガーさんは「フガ」しか言えていないのにま行の発音を気にしていたのもポイントだ。
2 オレは教室をまちがえた
いや オレは間違っていない
間違っているのは世の中さ
ええい やめろ やめてくれ
その商品名を一文字ずつ分けて
大勢の人間に言わせるCMは
やめろぉ~~~ラララ
ララララ~~ラララ
俺が教室を間違えた?
いや 間違っているのは君達だ
だから お前らの方が
「たてぶえ科」に
来ればいいだ~~ろが~~
ピューと吹く!ジャガー 第1巻14話「オレなりのスコルパンX」より
音楽プロダクションに新しくできた「たてぶえ科」の講師となったジャガーさんが、生徒を勧誘すべくギター科の教室に間違えたふりをして入って来た時のポエム。
「俺は間違えていない・間違えているのはお前らだ」という内容のこのポエムは、全20巻を通して「ジャガージュン市とはこういう人間だ」ということを表すのにふさわしいポエムなのではないだろうか。
実際には誰がどう考えてもジャガーさんが間違えているんだけど、そこを押し切るのがジャガーさん。
実社会にいたらとても迷惑な人間のように思えるが、そう感じさせないのが周りのキャラクター達の魅力であり、作者うすた京介さんの腕なんだよなぁ。
「商品名を一文字ずつ分けて大勢の人間に言わせるCM」ってなんとなく「あるあるw」って思ったんだけど、実際に例を挙げてみろと言われると思いつかないw
最初に思いついたのはとんかつの「KYK」のCMだけど、あれは一文字ずつ言ってはいるけど大勢の人間じゃないもんね。
こういう「実際には無いかもしれないけどあるあるだと思わせる」のがジャガーさんの強みかもしれない。
3 春郎(はるお)
小学校の時
春郎くん家に行った時
春郎くんのお母さんが着てた
赤い水玉のシャツが
よーく見たら
赤い水玉じゃなくて
エビの絵だったのが
すごくイヤだった
なんかイヤだった
妙にリアルでイヤだった
さて春場所も近いので
そろそろ稽古に行って来ます
ピューと吹く!ジャガー 第1巻21話「血みどろ!ポエム対決」より
ジャガーさんたちが公園の自然の中で詩のイマジネーションを高めるというレッスンをしていたところに、たまたま通りかかった人気バンド・ジュライのポギー。
ちやほやされたいポギーは、自分のことをぞんざいに扱うジャガーさんに怒り、どちらがより良い詩を作れるかジャガーさんに勝負をしかけるのだ。
その時に”春”というテーマでジャガーさんが詠んだのがこの詩。
詩というのは”わかりにくいようで実はよくわかる”ものではいけないというジャガーさん。
この詩はピヨ彦に「わかりやすいけど何だかよくわかんねぇーー‼」と突っ込まれていたけど、僕にはよくわかる。
水玉模様かと思ったら、近くでよく見ると水玉じゃなくて猫だったという体験が僕にもある。
猫とかだったらまだ良いんだけどエビって絶妙にリアルだと気持ち悪くない?笑
子供の頃ってリアルな絵とかそういうのすごい怖かった記憶があるんだよね。
どっかで聞いたことあるんだけど、人間は「中途半端なもの」が怖いらしい。
一番代表的なもので言うと、ゾンビ。
ゾンビがなんで怖いのかっていうと、生きているわけでもないし、死んでいるわけでもない、中途半端な存在だから。
幽霊とか妖怪もそうだよね。姿は見えないのに声が聞こえるとか、はっきり見えずに透けて見えるとか。全部中途半端。
これに当てはめると、”リアルなエビのイラスト”っていうのも実に中途半端なんだよね。
絵にしてはリアル過ぎるし、本物のエビのように動くわけでもない。中途半端。
そんな感情を、「なんかイヤだった」という一見わかりにくいような言葉で大衆に伝えているのではないだろうか。
知らんけど。
4 曲名なし
ああ~
まいったなぁコレ…
何でこんなジャケット
買っちゃったんだろ
やっぱ失敗したかな
さっきの高校生
オレの服見て
笑ってたんじゃないかな
そうだったらどうしよう
あいつら絶対ネタにするよ
「葬式さん」とか言ってるよ絶対
ヤバいよ…変に冒険とか
するんじゃなかったよ
ああ~くそ暑い…えっ
なんか熱い!うわっ何コレ
右側だけ妙に熱い!
なんか右側だけすごい
日光吸収してるよ!
さいあくだよコレ~
デザイン的にも構造的にも
ああ切ないよ やる気ねえよ…
こんなに切なくなったのは
あの娘が去った日以来だよ……
ピューと吹く!ジャガー 第3巻59話「この音が 君にも届くといいのにな」より
ピヨ彦が部屋で一人で曲を作っている時に、自分でも信じられないくらい良い曲ができた。
それを隠れて聞いていたジャガーさんと二人でさらに曲のイメージを膨らませていき、その曲のイメージに合わせてジャガーさんがつけた歌詞。
曲のイメージは日常生活で例えると、この画像のような変なジャケットを買ってしまった時の気持ちに近いらしいw
これは痛いほど気持ちがわかる。
服を買う時ってだいたいそうなんだけど、買った後高確率で後悔する。笑
買い物する時はけっこうテンションあがって無敵モード入ってるから
「俺ならこんな攻めた服でも似合っちゃうんじゃね??」
とか思うんだけど買い物終わったら無敵モード終わってるから、冷静に判断して
「やっぱり俺にはこんなの似合わねえよ…」
って思っちゃうんだよね。
だから毎回似たような服とか黒とかグレーとかの服ばっかり買っちゃうんだよ。
んでこれ”高校生”に笑われてるんじゃないかってのがポイントなんだよな。
中学生はまだオシャレとかわかんねえだろって強気になれるんだけど、高校生は結構オシャレに敏感なんだよ。
しかもこの場合の高校生って一人じゃなくて絶対複数人でしょ?
あーもう絶対笑ってるわ。バカにしてるよ、変な服着てる人とかオシャレしようとして失敗してる人のこと。
あーわかる!すげーわかるよ!
「普段は俺こんな服着ないし落ち着いた服装なんだよ!」
「今日たまたまこの服着てるだけだからこれは本当の俺じゃないんだよ!!」
って言いたくなるよな!!
…って詩の前半で共感性羞恥心を感じていると、後半の「右側だけで妙に熱い!」のあたりから一気に「よく考えたらこんな服あるわけないよな」という部分にフォーカスさせられる。
一つの詩の中に「あるある」と「ないない」を詰め込んで、読者の感情を揺さぶりにきている高度なテクニックだ。
5 アリのこと
アリはどうして黒いのかな
アリはどうして甘いのが好きなのかな
虫歯とかならないのかな
虫歯ってアレなんで
ちょっとくさいのかな
あと思ったんだけど
ねん土って燃えるゴミなのかな
それとも燃えないゴミなのかな
わかんないなあ…
ピューと吹く!ジャガー 第9巻178話「みんなもクシャミに気をつけよう」より
ジャガーさんが「そんまし!」「そそんそ!」「ソングラデッシュ!」などと独特なクシャミをする度に、どこかの誰かに少しだけ嫌なことが起こり落ち込むという話。
どうオチをつけるのかと思っていたら、ジャガーさんが「アレやっとくか」と突如このポエムを詠んで話が終わる。
この話でわかるように、”ポエム”はこの作品において切り札であり最終兵器なんだよね。
どうしても話にオチがつけられなかった時はポエムを詠んで話を終わらせればいいんだから。
でも当然その作戦は頻発はできない。ここぞという時に使うからおもしろい。
そしてこの作戦が許されていること自体が、この作品のすごい所。
ポッと出の作家が話のオチをポエムで終わらせたら、批判が殺到するどころか編集に必ずボツにされるだろう。
良い意味で”何でもあり”と作者に思わせることができるのがこの作品の強みであり魅力なんだよね。
ポエムの内容について触れると、まずアリはどうして黒いのか。
何でだろ?擬態じゃね?普段はアリの巣にいるわけだから真っ暗でしょ。
だから黄色とか白とかだったら目立っちゃうんじゃ??
でも赤いアリとかもいるよね。うーん、なんでだろう。
甘いのが好きなのも何でだ??
確かにそのイメージはある。でも果たして本当にそうか?
実は甘い物が好きなんじゃなくて、たまたま甘い物を運ぶ姿を見かけることが多いだけなのでは??
よく考えたらアリをよく見てたのって子供の頃がほとんどなわけで、子供が外で肉とか野菜とか食べないもんね。
子供が外で食べるのはアイスクリームとかキャンディーとか。
それらを落としてアリが運んでるのを見た記憶が印象に残っているだけで、きっとアリは本来なんでも食べるんだよきっと!
うん!そういうことにしとこう!!
虫歯ってくさいの?笑
あんまわかんないんだけど笑。
ってことは僕は虫歯無いってこと??
虫歯がくさいのは多分あれでしょ?
ちゃんと歯磨きしてないからでしょ?
ねん土の分別は、紙ねん土は可燃ごみで石こうねん土は不燃ごみの地域が多いみたいだね。
ちなみに作者うすたさんの住んでいる地域ではねん土は回収してくれないらしい。
そういえばねん土って最近見ないな。最近ってか小学生の時以来見てない気がする。
今度買いに行こうかな。
6 サタデーナイト
口が渇く 口が渇く
寝てると口が渇くんだ
え…年齢のせいなのかい?
そんな迷信…そんな迷信…
無性にイライラするぜ
バイトの店長ムカつくぜ
マジあいつ上司じゃなかったら
とっくにブッとばしてるよ
マジあいつがオレの部下で
オレより背も小っちゃくて
ガタイとかも貧弱で気弱だったら
ぜってぇブッ〇してるよ
ていうかマジでやるよオレは
次生まれ変わったらマジでやるよ
ピューと吹く!ジャガー 第13巻278話「全部ジャガーのもの」より
ピヨ彦が日記に苦戦してどんどんおかしくなっていく様を描いた、ジャガーさんの明日日記の中でピヨ彦が作った詩。
すごくややこしいけど、要はジャガーさんがピヨ彦になったつもりで作った詩。
ジャガーさんはピヨ彦をダメ人間にしたがっているので、この詩はまさにダメ人間が表現されている。
高齢者になると唾液の量が減って口や喉が乾燥する(ドライマウスという)らしい…。
そんな年齢の人がバイトの上司に不満を抱いていること・不満を持ちつつもそれを本人に言えずに陰口を言っていること・たらればを繰り返して挙句の果てには「生まれ変わったらやる」と今世をあきらめてしまっていること・どこをとってもダメ人間である。
ジャガーさんは時々こうやって僕たちに「こんな大人になるなよ」と警鐘を鳴らしてくれている気がしてならない。
この詩を反面教師として僕たちは今日も後悔しない人生を生きていくんだ…。ありがとうジャガーさん。
まとめ ポエムは最高の表現方法!
いかがだっただろうか?
この記事を書くにあたり全20巻を読み返したんだけど、意外にもジャガーさんが詠んだポエムはこれだけだった。もっと多いイメージがあったんだが。
ただ、これはあくまで「ジャガーさんが詠んだポエム」に限定しただけなので他のキャラクター達が詠んだポエムがまだまだたくさんある。
それらはまた別の機会に記事を書きたいと思う。
今回紹介したのはわずか5つのポエム(と1曲)だけにも関わらず、ジャガージュン市というキャラクターを良く知るためには十分だったのではないか。
その証拠に、最後にジャガーさんがポエムを詠んだのは13巻であり、作品全体としてはまだ折り返しを過ぎた辺りだ。
この時点で読者はジャガージュン市という男がどんな人物かわかっているので、これ以上ポエムで表現する必要はなくなったということではないだろうか。
それだけポエムというのはその人物を知るのに大きな意味を持つものだということである。
人間は一度はポエムを詠んだことがあるとどこかで聞いたことがある。
人はそれを黒歴史だとか若気の至りだとか言うが、決してそんなことはない。
ポエムは最高の表現方法だ。
自分を大事にし、自分の意見を尊重し、自分を表現する。
これこそが表現の自由だ!
ジャガーさんに今回そんなことを教えてもらった気がする。
では次回、ポエムの魅力・ポギー編(仮)でお会いしましょう。
最後まで読んでくれてありがとう!!